2009-10-17

恩田陸『ネクロポリス』 ブックレビュー (09/10/01)


民族学を志す研究者の卵、ジュンは異国の地アナザーヒルへと足を踏み入れる
この場所では、死者が還ってくる
蘇るのではない
遠い円環を描いて、
いつのまにか、彼らは目の前に現れるのだ

近代は、死をどこまでも遠ざけてきた
見えないように
考えないように
至上命令「すべての死臭を消せ」
しかし、清潔を装えば装うほど、
我々は原初の血の匂いをかぐことになる


アナザーヒルでは、 重なりあったセロファンの原色が、 闇の熱に溶かされていく
くすんだグレーに、 はじまりの色に
すべての色がそこから生まれ、
すべてがひとつの色へとまた還っていくのだ

太古の記憶が現前する意識と混じり合う
文字を持たぬ詩が科学論文を相手取り、反乱の狼煙を上げる
原始宗教が拠り処とした直観が、
今再び、
現代社会が誇る理性に逆ねじを喰らわせる




この物語は狂気を描いたものなのだろうか?
それとも、我々の生きるこの現実のほうが、
すでに狂気に支配されてしまったのだろうか?



~~作品から~~

人間というのはなんと不可思議な存在だろう。極めて物理的な存在でありながら、やはり自然の一部であり、容れ物である身体に比べて、精神活動は超自然に近い。現実的であろうとする精神は、常に矛盾の間で引き裂かれつつも、その微妙なバランスのとれた小さな一点を縫うようにして未来へ向かおうとする。  こんなことを自然と考えてしまうのも、ここにいるせいなのだ。  ジュンはしみじみとその事実を噛み締めた。  東京でこんなことを言ったら馬鹿にされるか、心配されるかのどちらかだろう。なぜかあそこでは、物理的な人は物理的な一面、超自然的な人は超自然的な一面からしか物事を見ることができないのだ。本来、両方を持っているのが人間だというのに。
( 第十一章「提灯と壜詰」より)

人間など、忘れっぽい生き物。今、ここでこうしていれば、アナザーヒルが世界のすべてになって、可愛い恋人のことなど別世界の見知らぬ生き物のようにしか感じられない。けれど、ここを去れば、また新たな目の前の現実が待ち構えている。残酷だが、それが事実だ。
(第十二章「地下への旅、地下からの旅」より)

「女の子は、どうすれば相手が自分に言い寄ってくれるか本能的に察知してるものよ。彼女はジュンの性格をよく把握してる。(中略)あなたの優しさは、自分のやりたいことを実現するために、無意識のうちに他人との摩擦を避けるものでもあるのよ。彼女はそのことを知ってる。だから、自分からアプローチするのではなく、あなたが自主的に彼女を選んだと思い込ませるように画策したの」
ジュンは感心した。苑子が実際にそんな手練手管を使ったかどうかは不明だが、自分の性格に関するハナの分析は当たっているように思えた。
「すごいな、ハナ。君、心理学者になれるよ」
ハナは顔をしかめて首を振った。
「まさか。女の子なら誰だって、こんなことわかるわ」
(中略)
「ハナには、その、彼氏はいないの?」
「あたし? いないわ」
探りを入れると、ハナはたちまち表情を硬化させた。
「本当に? そんなはずないだろ。これほどの美人に」
ジュンが驚いてみせると、ハナはかあっと赤くなった。
あれ、と思う。ジュンのことはあれほど緻密に分析してみせたのに、自分のこととなるとからっきし駄目なのだ。
ハナは自分が赤くなったことに気がつくと、慌てて顔を背けた。
「ほんとうにいないもん」
(第十章「生者と死者の幕間」より)

よりそれにしても・・・・ハナかわゆすなぁ(笑)

0 件のコメント:

コメントを投稿